ナンパだろうか?それにしては話に脈絡がなさ過ぎる。
思っていると男は目を少しだけ細めてズボンの後ろポケットから白い長方形の紙、名刺をあいみに差し出した。
「蜘蛛で困った事があったらここに行くといいよ。あ、僕、ルカの紹介だって言えば良くしてくれるから」
「・・・はあ。」
あいみは曖昧に返事をして名刺を見る。
『白石探偵所』とでかでかと書いてありその下には小さく住所が記されていた。
住所を見るとこの公園から歩いて10分位の駅前のビルの様だ。
「今のところ『蜘蛛』では困ってないんだけど・・・?」
あいみがおずおずと言うとルカ、と名乗った男は少し首をかしげる動作をして、
「そうなの?それ、大丈夫なんだ?」とあいみの腹を、アイスを持ってない手で指差した。
「え、なに?」
あいみが自分の腹を見ても、そこには何も無い。竜神学園指定の制服が見えるだけだ。
「・・・?“それ”って・・・??」
あいみはきょとんとした顔をする。
ルカはそれには答えずに、ふむと頷くと、トリプルの二段目のチョコチップを舐め始めた。

「まあ、でも困っている事はあるの。今とっても困っているの。」
ひらひらと指先で名刺を弄びながら、あいみはルカとの無駄話で暇を潰す事に決めた。
「無くし物かい。それとも、人探しかい?」
「彼氏を探しているの。消えちゃったのよ、突然。
ひどいと思わない?こんな可愛い彼女を置いてくなんて、さ。」
「そうかい?それは僕にはわからないな。」
あいみはルカの言った台詞に一瞬眉を寄せ、
「それって・・・俊夫・・・ああ、彼氏の名前なんだけど・・・。俊夫がひどくないって事?」
「ただ消えたってだけじゃ、僕には判断しかねるよ。彼はどうして君の元から姿を消したんだい?」
「わからないわ。」
あいみは忌々しげに吐き捨てた。とんとん、と名刺でこめかみを叩く。
「ここにいれば彼がやって来る当てでもあるのかい?」
「わからないわ。」
「じゃあ何故ここにいるんだい?」
「わからないわ。
・・・ここ以外に彼と、俊夫とあたしが繋がっている場所がないの。
あたし達は誰にも知られずにこっそりと付き合っていたの。
彼は教師だったし、あたしは生徒だったから。
だから、こっそりこのベンチで会っていたの。ここから、彼の部屋に直行って訳。」
あいみは自嘲とも取れる笑みを浮かべた。


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