井上あいみは学園前平和公園のルゲイエアイスの近くにある真ピンクのベンチに腰を降ろして
遠くを歩いている制服姿の男女を見ていた。
・・・いいなあ。私もあんな風に手繋いで歩きたいなー。
あいみは竜神学校中等部の三年生。エスカレーター式に進学するので受験勉強とは縁遠い生活を送っている。
早い話が毎日彼氏と乳繰り合っていた、という訳だ。
しかしここ一ヶ月はずっと連絡が跡絶えている。彼が行方不明になってしまったのだ。
あいみは相当その彼氏に熱を上げていて、彼の子供を生む約束までしていた。
まだ中学生だと言うのにあいみと彼は避妊具を付けなかったし、それで子供が出来てしまっても構わないと思っていた。
しかし彼は消えた。そのお陰で学校は大騒ぎ。
と言うのもそのあいみの彼氏と言うのが竜神学園中等部の教師だったからだ。
あいみは詳しくは知らないのだが、何でも彼の部屋である科学実験室で小火騒ぎがあり、
それから彼は忽然と姿を消してしまった様なのだ。
消えたのは彼だけではないらしく警察沙汰になり、あいみもしばらくはショックで部屋に閉じこもって泣いた。
そしてあいみは泣きながらどうしても解けない二つの疑問にぶち当った。
彼はどうして消えなくてはならなかったのか。そして彼はどこへ消えたのか。
二人はいつもこの公園のこのベンチで待ち合わせをした。
大抵は深夜か早朝で、彼は学校で会う時とはがらりと印象を変えた服を着てあいみを迎えに来た。
あいみはずっと待っている。彼を待っている。
ぼんやりと通りを見ていると一瞬何だかそこに不釣り合いな物を見た。
金髪で細身長身の肌の白い男(外国人だろうか)が涼しい顔で山盛りアイスクリームを持ってこちらに歩いてくる。
すっきりした細いラインのジーンズにベージュのジップアップパーカーという姿で、
初夏だと言うのに男は何食わぬ顔でマフラーを巻いていた。
・・・変な外人・・・。
あいみは思わず季節感無さ過ぎなその男に内心でツッ込みを入れた。
男はそのままあいみの横に座ると手にしたアイス(トリプル)を美味いのか美味くないのか無表情で舐め始めた。
・・・ますます変な外人・・・
近くで見てみると男はかなりの美形である事がわかる。
まつ毛は長く綺麗な曲線を描いて空に伸びているし、鼻筋も通っていて人並み以上に高いし、
唇は赤くふっくらと厚いし、少々童顔であろうが文句無しにいい男。
じっとあいみが見ていると、男はいきなりあいみの方に振り向いた。
そしてアイスをあいみの方に傾けると「食べたいの?」と言った。
あいみはぶんぶん右手を振りながら「いや、あたしダイエット中だから」と返す。
ふーん、と男は相槌を打って前を向いたが思い出したかの様にまたあいみの方を向いて言った。
「君は蜘蛛が好きなの?」
あいみは一瞬何の事かわからなかったがすぐに
「虫の方?それとも空に浮いている方?」と聞き返した。
「うん、生きている方」と男は真面目な顔で言うのでついあいみも真顔で「嫌いじゃないよ。」と言った。
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