「誕生日、おめでとう。」
ユキ夫がさわやかに笑うので、何となく俺はむず痒くてひきつった笑みを浮かべてしまった。
今日、俺は十六回目の誕生日を迎えた。
ユキ夫は向かいのアパートの一階の左端に住んでいて、俺より大人びた顔をしているものの、三つも年下なのだ。
並んで歩けば同い年か、下手をすると俺の方が年下に見られてしまう。
なんとも屈辱的であるのだが、そんな事でいちいち立腹していてはそれこそ子供っぽいねと笑われてしまう。
ユキ夫は顔に見合った、大人びた性格の持ち主なのである。
「これ、誕生日プレゼント。」
ユキ夫の差し出した見慣れたCDショップ店のビニール袋を太陽にすかせば、ちょうど欲しかったCDアルバムがそこにある。
「うわっ、これデジラヴァのアルバムじゃん。今月金欠でまだ買ってなかったの、よく知ってたな!」
ユキ夫のこういう勘は非常に鋭い。
「今月金欠なの?じゃあ今日のお昼は僕がおごるよ。」
「まーぢーで!!うわー、俺毎日誕生日だったらいいのにな!」
にこにこと笑うユキ夫。
ユキ夫の誕生日は半年後だ。
今からちょっとずつ貯金して、ユキ夫の誕生日には豪華なプレゼントをしよう!
いつもユキ夫には色んなものを貰っているからな。
前の誕生日はパソコンのタイピングソフトを、その前はずっと欲しかったビンテージのジーンズ、
その前は携帯電話の新機種、その前はドラゴンボール全巻セット、ゲームソフト、一抱えもある熊のぬいぐるみ、
ピアッサーとピアスのセット、夏休みの宿題をまるまるやってくれるのがプレゼント、なんて時もあった。
そこで俺はふと、あれ?と小首をかしげた。
「あれ、ユキ夫って引っ越してきたのいつだっけ?」
隣を歩くユキ夫はにこにこしながら俺を見つめて、
「昨日だよ。」
「・・・・・・え?」
そういえばそうだ。俺はまだユキ夫の誕生日にプレゼントを贈った事は一度もない。
「あ…れ?俺たちって…いつ出会ったんだっけ…?え…、あれ?なんか…出会った時の記憶が…」
混乱する俺をよそに、ユキ夫は相変わらずの笑顔を顔に貼り付けたまま、俺をじっと見つめ…
ごっ!
頭蓋の割れる音がした。
やれやれとひとりごち、ユキ夫は手についた血をポケットから出したハンカチで拭う。
今のいままで自分と会話をしていた人間が、ただの肉塊に変わるこの瞬間がやはり好きになれない。
たとえそれが十六回目だとしても、虚しさと切なさを感じずにはいられない。
「ねえ、いつになったら僕の誕生日を祝ってくれるの?僕はいつまで君に貢ぎ続ければいいのかなあ?」
「誕生日、おめでとう。」
今日、俺は十七回目の誕生日を迎えた。
ユキ夫が笑顔で俺の前にいる。
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