ばりいぃぃん!!
と派手な音を立てて廊下の窓が割れ、そこからノブにからみついているものと同じもの・・・
燃える糸が少年めがけて勢い良く飛び出した。
少年はそれを軽く横によけるだけでかわすと、その糸は少年の後ろの壁にある掲示板にぶちあたり、
それを燃やすでもなく四散した。
ようこはすでに足がすくむなんて状態ではなく、ついに足の力が抜けてへたりこんでしまった。
少年はそれが口から吐き出す糸を横にかわし、とんでかわし、剣で受けたりしながら、それと間合いを詰める。
ようこはこれは映画かなにかなのかもしれない、と思った。
目の前の事態に頭が追いついていない。
それは窓の外から・・・ようこの位置からでは良く見えないが、校舎の外壁にへばりついてこちら側、
廊下の少年に向かってその顔と思しき部分から糸を吐き続けている。
それを見ながら、ようこはもしこれが映画なのだとしたら、グロテスクすぎる。一般受けはしないな、と思った。
ようこの腰ほどもある四対の黒く細かな毛の生えた足をもつ化け物は、その身体だけを見るならまるきり巨大な蜘蛛であった。
ただし、その頭部にあたる部分には蜘蛛の頭などではなく、人間の頭がついていた。
そう、ようこが先ほどまで一緒にいた、青沢俊夫の顔が。
少年は一気に踏み込んで青沢のふところに入ると右足を二本ほど乱暴にひっつかんで廊下に投げ入れた。
(なんという怪力だろうか!)
宙を舞った青沢は空中でくるりと回転して掲示板にすべての足をつけそこに立つと
フルスイングの体勢の少年に燃える糸を浴びせかける。
少年は避けきれずにこれを左胸に浴び、糸はその先端を少年の胸に食い込ませ、内部から炎を噴出させた。
ようこはついにがちがちと歯の根のあわない口からひっ、と小さな悲鳴をあげた。
にやり、と青沢は口の端をゆがませたが、少年は顔色一つ変えずに再び左手で剣を握り、一気に青沢との間合いを詰めた。
青沢は心臓に致命傷を食らいながらも向かってくる少年に目をむいただけで、もう反応出来なかった。
少年は青沢の首に右から刀をいれ、一気に左に引く。
青沢の首は勢い良く天井にぶち当たり、そこからようこの眼前にころころと転がってきた。
蜘蛛の身体の方は首の部分から天井に向かって鮮血が噴出し続け、少年は赤黒く生臭い血でぬれた。
少年は首をはねられた身体の方をなにやら調べていたがようこにはでうでも良いことだった。
はねられたその首はまだ息があり、血をげぼっ、とようこに向かってはいた。
「・・・せ、先生?先生、しっかりして、先生!」
ようこは半ば恐慌状態に陥りながらもその首にすがった。
首はなにやらうつろな目でようこを見つめるとまだ血のしたたる唇を微かに動かした。
が、それだけだった。ようこには青沢が何を言いたかったのかわからなかったし、
そもそも何かを言おうとしていたのかさえもわからなかった。
唇が青ざめ、その顔からは血の気が引き、首の断面からもぬめぬめとした血はもう出てこない。
ようこは呆然とその首を抱いて少年をぼんやり見つめていた。
身体の方を調べつくした少年はようこを見ると、呆れている様にも同情している様にも見える微妙な表情をした。
ようこの抱えている首を右手でつかむと、ぽんと身体の方に投げ捨てる。
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