『はじまりの合図』

たん、とわたしはたっていた屋上のへりを蹴って空中へと身を躍らせた。
短距離走のスタートを知らせる乾いた銃の音色を思わせる、
靴底から発せられたその音を合図に、
わたしはほんのちょっとの浮遊から一気に落下へと転身。
耳元でうなる空気の振動はまるでロックバンドのステージの様。
風の精霊達がわたしを歓迎している。
いつしか下界に見えていた無粋なコンクリートはかすみ、
いつか絵本で見た、夢に描いた不思議の国が見えてきた。
やめてちょうだい、わたしは眠りたいのよ。
落下速度ががくんと落ちて、私はついに空中をふわふわと漂うだけになってしまう。
やめて、わたしは・・・今更そんな夢をわたしに見せないで。
現実の終わりは夢の続き、だなんて誰がいったんだったっけ?
はやく終わらせて。電気を消して。かきけして。全て、何もかも。


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