『かわいいひと』
「おい、そこの女、なにをしてる?」
ふいに声がした。とてもぶっきらぼうで乱暴な声なのだが、
まるでオペラの歌姫の様な澄んだ声。
振り向くと、真っ白なローブに同じく真っ白なマントを羽織った女性が立っていた。
その手には、とてもとても不自然な農作業なんかで使う「鍬」が握られてるわけなのだが。
「わしの畑で何をしている、と聞いているのだが?」
毛先を切りそろえられた長い黒髪をたらし、眉間にしわを寄せながら問う彼女の姿は、
同性ながらも惚れ惚れしてしまうくらい美しくて、それだけでわたしはひるんでしまう。
「もしもーし、言葉通じてますかー?ていうか聞いてますかー?」
額にうっすら青筋を浮かべながら、彼女が鍬を持つ手に力を込めたのを見て、わたしは焦って、
「あ、あの、あの上の、あそこから、落ちてきたんですっ。」
と頭上を、痛まない左手の人差し指で指しながら早口でまくし立てた。
「ほう?」
女性は頭上を仰ぎ見、もう一度わたしの方を見てはん、と鼻で笑うと、
「するってーと、お前さんは『人間』ってーやつか?
今度の人間もまた、ずいぶんと惰弱そーというか、脆弱そーというか・・・」
手近にあった木に鍬をあずけ、私の周りをゆっくりと廻りながら遠慮のない視線を送ってくる彼女。
ううう、なんだかその妙〜な迫力に押されて反論どころか身じろぎひとつできずに
されるがままになっている自分が情けない・・・。
「随分とこりゃあ、変な衣服だな。こんなもん、斬ったり突いたりしたらすぐに破けちまうだろ。」
誤解のないように言っておくが、わたしはいたって普通な、学園指定のセーラー服を着ている。
物騒な事を言いながら、彼女はずいと手を伸ばしていきなりわたしのスカートをむんずと掴んだ。
「ちょっ!なにするんですか?!」
わたしは慌てて下着が露わになるのを防ぐため、女性の腕を振り払った。
「ふん、まあいい。とりあえず『ようこそ』といったところか、人間の女。
わしの名はラビ。ラビ・レーフ。その貧相な胸に刻んで、世の儚さを嘆く度に想いを馳せよ。」
さらっと失礼なことを言われてしまうのは、わたしの生まれた星の定めだろうか?
かわいい顔してあまり関わり合いになりたくないタイプの女性だが、
今はどうこう言ってもしょうのない状況なので、仕方なしにわたしははあ、と濁した返事を小声で発した。
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