5:オスカー=サジェスト
暇人、オスカーは実は「暇である事」をそれほど嫌ってはいませんでした。
しかし、もしも仮に「暇でなくなった時」、自分がどうなってしまうのか、それを考えると胸が高揚して顔が上気し、そわそわと落ち着きがなくなってしまいます。
何故なら、彼女、オスカー=サジェストは生まれてこの方、「暇でなくなった事」がないのです。
だから、彼女は暇のうまい潰し方をよく心得ています。
そしてこの世界の全ての理も、彼女は誰よりも何よりもよく心得ているのです。
彼女は塔のへりに立ち、下を見ました。ずっとずっと下方に、うっすらと白い雲が流れているのが見えます。オスカーはその雲がどのように生み出され、どこを流れ、そしてどんな風に水に戻ってゆくのかも知っています。
それでも、オスカーは心の中ではその雲に触れる事を、そしてその雲を運ぶ風を肌で感じる事を望んでいました。
そうです。オスカーはこの塔の最上部に生まれた時から縛り付けられていたのです。
と言っても、言葉通りに縄や紐で縛られている訳ではありません。オスカーのいる塔の最上部は、遮断された空間なのです。
彼女は、全ての者よりも劣り、また勝っている存在である為に全ての民から、また全ての事象から忌み嫌われ、この狭い塔の最上部に封印されているのです。
オスカーは、自分が封印された事については特になんの感慨も持っていませんでした。
けれども、全ての事を目視しながらも、じっとそっと機会を窺っているのです。
オスカーの封印を解く方法はただ一つ。
世界に乱立する全ての塔の鍵を壊し、門を開く事。
今、一つの門が開こうとしています。
オスカーはこの胸のときめきを、誰かに伝えたくてうずうずしています。しかし、彼女はまだその喉を震わせて話す事が出来ません。声を奪われ、歌う事も叫ぶ事も、囁き声を出すことでさえも不可能なのです。
オスカー=サジェストは、門が開いてゆくのを静かにじっと待っています。静かに、しかし確実に開いてゆく破滅へと向かう門が開いてゆく様を、ただじっと見つめているのです。
プロローグ終。
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