じっと遠くから見つめるとぼうっと赤黒く揺れる。
ちらと横目で見ると真っ白な肌が視界にちらつく。
目の前まで歩いてきたソレは、売り物のアイスを物ほしそうに眺めては名残惜しそうに離れてゆく。
真ピンクのベンチに居座る彼女は、何だか儚げな淡い色をしている。
ルゲイエ・アイスの真正面にある真ピンクの二人掛けのベンチには彼女・・・
名前はわからないが、竜神学園の制服に身を包んだ女性が居座っていた。

僕の家はいわゆる霊能力者の家系と言う奴で、父以外の家族は何かしら特殊な能力が備わっている。
母方の、特に女性に強く受け継がれる特性を持つらしく、母は霊を降ろす事が出来るし、
姉は霊を祓う事が出来る(あまり凶悪な霊は駄目らしいが)。
僕はと言うと、ただぼんやりと霊が見えるだけなのであまり役に立たない。
・・・君子危うきに近寄らず。
凶悪な霊がいる場所を避ける事位しか出来ない。
凶悪だろうと温厚だろうとまず近付かない様にすればよい。
しかしこの世界の至る所に存在する霊全てを避ける事は出来ない。
やむを得ず近付く場合はこちらが向こうに気がついている事を悟られない様にすればなんともない。
目線を合わさなければ良い。
真ピンクのベンチの彼女はきっと誰かを待っているんだろう。
頻繁に公園に備え付けられた背の高い時計を見上げている。
ベンチに座っては立ち上がり、出店の前をぶらぶらしてはまたベンチに座る。
男・・・だろうか。
「小山くんはいつもあのベンチを見てるのね」
「え」
ふいに後ろから宮前さんの声が聞こえた。
「あ、おはようございます」
僕が会釈すると、宮前さんは悪戯っぽい笑顔を浮かべ、
「幽霊でも座ってるのが見えるのかしら?」と言った。
僕は内心ぎくりとしたが、そんな事はおくびも出さずに
「ああ、そう言えばそんな噂がありましたね。僕、霊感ないですから。」
そうね、と宮前さんは穏やかに笑った。
「あら、今日は随分早い時間に来てるわね。」
幽霊話もほどほどに、宮前さんは真ピンクのベンチに向かって歩いてきた男を見付けて言った。
「もしかして、噂の?」
僕はわざと大袈裟な言い回しで彼を目で指した。
僕がここでバイトを始める前から、あの真ピンクのベンチに毎日通っている男。
宮前さんは彼を「不思議クン」と呼んでいたので僕もそう呼んでいる。
僕が言うのも何だが、不思議クンは相当に不思議な人だった。
真夏だと言うのに、いつも涼しい顔で長袖の服を着込み、マフラーを首に巻いていると言うのだ。
しかも、日本人ではないらしく、国籍不明の「超美形」とか。

不思議クンを視界に捕えて僕はぎくりとした。
確かに不思議クンは相当不思議ないでたちで、それだけでもちょっと引いてしまったのだが、
不思議クンの上に、覆い被さるように浮遊する霊が見えたからだ。
黒く揃えたおかっぱ頭に黒目がちな大きな目。
唇には深い紫のルージュを落とし、その肌は焼け焦げた様に異常に黒い。
その身には何もまとっていない。
だがそんなことより、僕は彼女の背中からはえた不可思議な物に釘付けになっていた。
漆黒の翼。
烏を思わせるその翼はまるで自分が天より追放され堕天使であると主張するかの様に、
誇らしげに何度となく羽ばたいた。

姉にきいた事はある。
あまりの情念で蛇の姿に化身してしまった霊の話を。
だが・・・何というか。
彼女にはそういう臭いがしない。
うまく言葉では説明できないが、それとは別物であるように感じた。

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